こちらは数年前にOAKLEY(オークリー)純正度付きレンズで作製させていただいた、FLAK JACKET(フラックジャケット)の右レンズですが、鼻側が欠けてしまったとのことでご相談いただきました。
日常よりはるかにシビアなコンディション下で行われるスポーツなどでは、OAKLEY純正レンズのように卓越した強靭性を持ってしても、一番負荷がかかるレンズの端のフレームとレンズをはめ込んでいる爪状のフック部分は欠けてしまうことがあります。
数年にわたりお客様の眼をプロテクションし続けてくれたFLAK JACKETは、レンズだけではなく、フレームも、経年的な劣化やキズ、変形などがあり、新調していただくことになったのですが、もう少しの間、使用できるようにしてほしいとのことでした。
他のお客様からも時々、レンズが割れてしまったが修理できませんか?とお問い合わせいただくことがあるのですが、基本的にメガネのレンズというのはフレームと違い修理することができないんです。
というのも、メガネのレンズはコーティングや研磨など複数のプロセスを経て完成しており、割れているところだけ再度作製することができず、また、例えば異素材などを使用して、見かけは直っていたとしても、メガネをかけるときの僅かな力でもまた割れてしまいます。
今回は、なんとか少しの間…フレームもレンズも使用できないのでせめて少しの間…とのことでした。
わかりました。
当店をご利用いただいているお客様のリクエストになんとかお応えしようと、修復を試みました。
フレーム、レンズともにどのような方法でも構わない
と言われておりましたが、できるだけ外観上も機能面でも
損ねないようにあれこれ考えテストなどして
こういった方法で修理しました。
レンズが割れてしまった際お客様自身で瞬間接着剤で接着をされてみたそうで、レンズの欠けている部分だけでなく、段落ち部分には複数のクラックが確認できたため(ポリカーボネートなどの素材は瞬間接着剤などを使用するとクラックが入ったり強度が弱くなることがあります)、何かを埋め込む方法は難しいと考えました。
そこでまず、レンズの欠けている部分の新鮮面をだし、僅かでも異素材が入り込むようにアンダーカットを作ってレジン材でフックを作製しました。
こちらの画像はレジン材を盛り上げたところです。
そして硬化時間を待って爪状のフック部分を削りながら形を作り、形態修正。
フックはこれ以上大きくすると応力がかかりやすくなるのであえて小さめにし、フレームに取り付けられるようにしたところです。
先ほども書きましたが、見かけだけ異素材を使用して修復しても、かける時に力が加わると欠けてしまうので、このままではダメなんですね~
こちらの修復法のミソは、これから行う接着にあります。
接着材には、フレームにもレンズにも害のないシリコン系の接着材を使用して、フレームとレンズの接着と、欠けたり、クラックの入って弱ってしまっているレンズとフレームの間をシリコンで埋め、少しでも衝撃を吸収するクッションの役割を担ってもらおうということです。
先ほどレジンで修復したフックは、接着材が硬化するまでの間フレームとレンズを保持しておくためにも必要で、本来は、レンズのフック部にテンションをかけ、フレームにひっかかるようにしてはめ込んであるところを、フック部ではなく、フレーム内の段落ちしてあるレンズ全面で、シリコン接着剤による保持力を求めようと考えました。
こちらの接着材は最初はのり状ですが、硬化すると、適度な弾力のまま強力に接着されます。
耐水性や耐熱性など、自店でも簡易的にテストし、さらに、メーカーに問い合わせてみましたが、一般的なアイウェアの使用条件、さらには、短期間での使用には問題ないとの回答を受けました。
欠点としては、この接着材を剥離させるのがかなり難しいといった点がありました。今回のケースでは、このままレンズを外したり、フレームだけ使用したりすることがこの先ないとお話いただいたことで、この修理方法がベストと判断致しました。
フレームも可能な限り変形を修正し、汚れや油を洗浄し、接着しやすい表面性状にしてから接着し、硬化時間を待って完成したところです。
装用する時の応力ぐらいでは壊れる気配はありませんでした。
もちろん、水などで軽く洗浄してもOKですし、普通に使用することができます。
しかしながら、初めて行った修理なので、どの程度使用できるかは現状では不明で、こういった修理をおすすめしているわけではありません。
こういった修理は、お客さまとの信頼関係がないとできないですし、元に戻すこともできなくなってしまうため、当店でお作りいただいたお客さまに限り、欠点などよくご理解いただいた方のみ行っています。
なんとか使用していただくことができ、お客さまに大変喜んでいただいてホッとしております。
メガネのコミヤマではお客さまの快適なメガネライフのために様々な技術を日々アップデートしております。